「お母さん、粉ふるって」
今日作るふわふわのパンはね、小麦粉が違うのと発酵のスキルを使う以外は村で焼いてるパンとおんなじなんだよね。
だから僕、村のおばさんたちと一緒に作った事があるお母さんにお手伝いしてって頼んだんだ。
「ええ、いいわよ」
「お母さん、ルディーン。水持ってきたよ」
「ありがとう、レーア姉ちゃん」
それにね、いっつもご飯を作るお手伝いしてるからって、レーア姉ちゃんも手伝ってくれるんだって。
「ルディーン、私は?」
「キャリーナ姉ちゃんは見てるだけでいいよ」
「え〜、つまんない!」
でもね、キャリーナ姉ちゃんだけはやる事なくてつまんないみたい。
だからなんかないの? って僕に聞いてくるんだよね。
でもさ、パン作りってふるった粉にお水を塩を混ぜた後は、僕が発酵スキルを使いながらこねるくらいしかやる事が無いんだよね。
「でもさ、もうやる事ないもん。お母さんやレーア姉ちゃんだって僕が生地をこね始めたら、後は見てるだけなんだよ?」
「でもでも、私だって何かやりたい!」
お塩だけでも持ってきてもらえばよかったのかもしれないけど、よく混ざるようにってふるう前に小麦粉に混ぜちゃってるんだよね。
それにさ、バターとか牛乳を入れた方がおいしくなるのは解ってるけど、今日は初めてお家で作るから村で作ってるパンとおんなじ材料で作るつもりなんだ。
だから後はお水を混ぜるくらいしかやる事ないけど、パンを作る時ってお水の量が結構大事だからキャリーナ姉ちゃんに入れてって言うわけにはいかないし……。
「何かないかなぁ?」
キャリーナ姉ちゃんにやってもらう事が何にも思いつかなかったもんだから、僕は困っちゃったんだよね。
そしたらさ、お母さんが助けてくれたんだ。
「ルディーン。アマンダさんと一緒に作った時、生地に何かをつけたって言ってたわよね? その生地をこねるのってルディーンがやらないとダメなの?」
「あっ、そっか! 発酵は僕がやんないとダメだけど、こねるのは誰でもできるよね」
あの時ってもう練ってある生地に酵母菌をつけてスキルで増やしたけど、菌そのものは材料を混ぜた時に一緒に混ぜても大丈夫なんだよね。
だからその記事をこねるのだけキャリーナ姉ちゃんに手伝ってもらって、それを僕が発酵させればいいのか。
「キャリーナ姉ちゃん。生地をこねるの、手伝って」
「うん!」
って事で、ふるった小麦粉とお塩にお水をちょっとずつ混ぜながら、それを僕とキャリーナ姉ちゃんでこねこね。
でね、粉っぽさが無くなってきたところでそこ生地に空気中から抽出した酵母菌を混ぜて、それをスキルで増やしながらさらにこねてったんだ。
「キャリーナ姉ちゃん、もうこんなもんでいいよ」
「そうなの? でも、まだぷくってしてないよ?」
キャリーナ姉ちゃんはね、アマンダさんのとこで作った時に生地が膨らんだのを覚えてたみたいなんだ。
でもどうやってそうなったのかまで覚えてなかったもんだから、こねてるうちに膨らんでくって思ってたみたい。
「大丈夫だよ。ぷく〜って膨らむのは、このまんましばらく置いとくか、僕が発酵スキルを使わないとならないもん」
「そうなんだ。よかった」
だから僕がこねても膨らまないんだよって教えてあげたら、キャリーナ姉ちゃんはにっこり。
「じゃあさ、ルディーン。早くぷくってさせて」
「うん! じゃあ、やるね」
キャリーナ姉ちゃんがお目めをキラキラさせて早く早くって言うもんだから、僕はさっそく発酵スキルを使ってパン生地を膨らませてたんだよ。
「う〜ん、こねたばかりの時は村で焼くパンの生地を見た目が変わらないのに、こうやって膨らむのを見るとやっぱり不思議な感じがするわね」
「そうなの?」
「ええ、そうよ。村で作るパンもね、生地をこねた後に濡れ布巾をかけて一晩おくと少しだけ膨らむんだけど、流石にここまでは膨らまないもの」
お母さんは村で焼くパンの生地を知ってるから、この柔らかいパンの生地が膨らむのがすっごく不思議なんだって。
「これって、小麦粉そのものが違うのよね? 見ただけでは村にある小麦粉と同じに見えるけど、こんな風に膨らむのはやっぱりかなり違うの?」
「うん。アマンダさんはね、粘りが出る小麦粉じゃないとぷくって膨らまないんだよって言ってた!」
普段村で使ってる小麦粉に酵母菌をつけて発酵させるとね、粘りが足んないから膨らむ時に切れちゃうそうなんだよね。
だからそれでパンを焼くと中が穴だらけになっちゃって、この小麦粉で作るみたいに柔らかいパンにならないんだってさ。
「なるほどねぇ」
それをお母さんに教えてあげると、パンケーキの時はちゃんと膨らむのに、不思議ねだって。
そう言えばパンケーキだと膨らむんだよなぁ。
なんでなんだろ?
「ルディーン、そろそろいいんじゃないの?」
「あっ、ほんとだ!」
僕がそんな事を考えながら発酵スキルを使ってると、横で見て他レーア姉ちゃんがそろそろいいんじゃないの? って教えてくれたんだ。
だからそこで1時発酵は終了。
「キャリーナ姉ちゃん。これ、もう一回こねるから手伝って」
「うん、わかった!」
僕はぷくって膨らんだ生地を何個かに切り分けると、それをキャリーナ姉ちゃんと一緒にこねこね。
そうやって十分中の空気を抜いてから、それをまあるくしてオーブンに入れる鉄板の上にのっけてったんだ。
「これを焼けばいいの?」
「ううん、まだだよ。もういっぺん、発酵させないとダメなんだ」
もし食パンを作ろうと思ったらこの生地を型に入れないとダメなんだけど、今回は丸パンにするつもりだからこのまんま二次発酵。
これもスキルでやったもんだから、あっという間に全部の生地がぷく〜って膨らんでったんだ。
「わぁ、大きくなった! ルディーン。今度こそ、これを焼けばいいんだよね?」
「うん! ほんとは上に卵を溶いたもんを塗るといいんだけど、今日はそんなもん用意してないからこのまま焼こっ」
卵を塗ると塗ったとこがつるつるピカピカになるけど、今はないからそのままね。
パンを焼く時は大体160〜180度くらいだよってアマンダさんが言ってたから、魔道オーブンのスイッチを入れてその温度になるまで余熱。
でね、ちゃんと中があったまってからその温度のまんまになるように活性化してる火の魔石の数を減らして、僕は生地が乗っかった鉄板をオーブンの中に入れたんだ。
「ねぇ、ルディーン。この魔道具って蓋閉めちゃうと中が見えなくなっちゃうよ? どうやって焼けたか解るの?」
「焼きあがるまでの大体の時間はね、アマンダさんが教えてくれたんだ。だから大丈夫だよ」
アマンダさんはね、料理人としての技術をちゃんと持ってる僕だったら中を見なくっても焼けてきたにおいだけでちょうどいい焼き加減が解るよって言ってたんだよね。
それにこういうちっちゃいパンは焼けるまでにそんなに時間がかかんないから、僕はそのまんま魔道オーブンの前で焼きあがるまでずっと待ってたんだ。
「わぁ、いいにおい」
「ほんとにね。それに綺麗な色に焼けてるわ」
アマンダさんの言う通り、これくらいかなぁ? って思ったとこで魔道オーブンを止めて扉を開けてみたらね、ほんとに美味しそうに焼けてたんだよね。
これ、ほんとはご飯の時に食べるやつなんだけど、あんまりおいしそうに焼けてるもんだから、一個だけみんなで分けっこして食べてみたんだよ。
「中もふわふわだし、すっごく美味しいわね」
「うん! これだったらきっと、焼いたお肉とかお野菜を挟んで食べてもおいしいと思うよ」
牛乳とかバターを入れなかったからちょっとバサバサするかな? って思ったけど、お水の量がよかったからか食べてみたらとっても美味しかったんだ。
それにね。塩と小麦粉だけだからすっごくあっさりとした味なんだよね。
だからさ、これだったらきっと、いろんなものを挟んだ食べた方がおいしいって僕、思うんだ。
「あら、それは素敵ね。確かブラックボアのお肉が冷蔵庫に入ってたはずだし、あれを焼いて挟みましょう」
「じゃあさ、お母さん。ルディーンも言ってるし、お野菜も一緒に挟もうよ」
「あら、キャリーナ。いい考えね。そうしましょう」
こうして僕たちはその夜、脂たっぷりのブラックボアと葉っぱのお野菜を挟んだご飯をみんなで食べたんだよ。
そしたらね、それを食べたお兄ちゃんたちも大喜び。
「でもこのパン、美味いのは美味いけど、柔らかすぎてちょっと頼りないな」
でもね、お父さんはいっつも食べてるパンの方がいいみたい。
いっつも食べてるパンってちょっと硬いから、何度も噛まないとダメでしょ?
だからそっちの方が、食べてる! って気がするんだって。
「あら、ハンス。でもあっちのパンだと、こんな風に肉を挟んで食べるなんて事、できないわよ?」
「それは確かにそうなんだよなぁ。特に葉野菜とボアの肉との相性は文句なしだ」
でもね、お肉を挟んだパン自体はおいしいからって、お酒を飲みながらお兄ちゃんたちとおんなじくらいいっぱい食べちゃったんだよ。
ドイツパンやフランスパンのように、ちょっと硬いパンが好きな人でも何かを挟むなら食パンやコッペパンの方がおいしいと思う人、多いですよね。
それにお酒の当てにするのなら、パン単体より間違いなくお肉を挟んだものの方が合う事でしょう。
そんな訳で、初めて食べた時は固い方がいいと言っていたお父さんですが、最終的に晩御飯だけはこっちの方が言い出すのはまた別のお話w
さて、年末年始はいろいろと忙しいので、すみませんが3回分お休みを頂き、次回更新は1月8日となります。
それでは今年1年、お付き合いくださいましてありがとうございました。
来年もまた、この物語を読んで頂けたら幸いです。よいお年を。